「花×スポーツ」!? 地方創生に活きる2児ママの仕事術
訪れたのは虎ノ門にある、市場に流通しない花を扱う花屋「hanane」。
入り口を開けるとカフェバーを思わせる大きなテーブルと、ガラス張りの棚に迎えられた。
壁に飾られたドライフラワー、棚に並ぶグラス、店内の色合い、すべてが静かな美をまとっている。
だが花屋なのに、生花は見当たらないのだ。
この少々変わった花屋さんで話をうかがったのは、スポーツと地方創生の活動を行う安部未知子氏。
同氏はどのような思いで、hananeで花とスポーツの交わりを見つけたのだろうか。そして「スポーツ×地方創生」の難しさ、家族への思いを語ってくれた。
安部未知子氏プロフィ―ル
京都出身。大阪体育大学卒業。大学ではスポーツ・ビジネスの勉強を行う。株式会社SC鳥取(「ガイナーレ鳥取」運営)や東京ヴェルディ株式会社(「東京ヴェルディ1969」運営)などのインターンシップを経て、東京ヴェルディ(株)に就職。約5年後に当時のスポンサー企業であった日本テレビがスポンサーを撤退になり、地元京都にある株式会社京都パープルサンガ(「京都サンガF.C.」運営)に転職。
その後、結婚を機に東京に戻りベンチャー企業の幹部人材コンサル企業「株式会社BNGパートナーズ」に就職。これまでの経験を活かしスポーツ団体などのコンサルを手がける。経営者と話す中で、人材だけでは解決できないさまざまな課題を知り人材にとらわれない課題解決のため、2018年の5月よりフリーランスとして働き始める。
小学校から大学までサッカークラブに所属。現在も都内のママさんサッカーチームに在籍している。
安部未知子氏が行う、「花×スポーツ」とは?
――安部未知子氏の活動を教えてください。
安部氏:
サッカーをはじめとするスポーツ界を活性化させるために、地方創生や各企業の営業支援などを行っています。こちらのお店「hanane」も、その一環としてお世話になっています。
――花屋「hanane」と「スポーツ」の関係性がよく分からないのですが。
安部氏:
Jリーグやクラブハウスなどが保有している施設の空きスペースをお借りして、お花の集荷場として使わせてもらう活動を行っています。
集荷場の賃借料としてスポーツ団体にお金を払うことができ、新しい事業の一翼を担ってくれると感じています。
他にもカニのプロデュースやなでしこチーム「ちふれASエルフェン埼玉」の支援なども行っています。
――カニやなでしこチームですか? そちらも気になりますが(笑)。まずは、hananeの事業について教えてください。
安部氏:
お花は、市場の規格が結構細かく決まっていて、長さが足りなかったり曲がっていたりするとそれだけで規格外のお花とされて、一般的な市場に流通されません。その規格外のお花が生産の約2、3割あると言われています。
hananeでは、市場に流通できないお花を生産者から直接買い取って、お客さんに販売しています。ただ規格が足りないだけで、とてもきれいなお花なんですよ。
――ということはhananeで花を買うと、「花の生産者の支援」と「スポーツチームなどの支援」ができるということでしょうか。
安部氏:
そういうことです!
――すてきです。
安部氏:
お花の集荷場は神奈川県からスタートしました。生産者の方も、神奈川県伊勢原市から始まり広がりを見せています。
とはいえサッカークラブや生産者との提携ばかりを進めていてもダメで、hananeの成長とともに歩んでいく必要があります。なので私も生産者のところに行って、お花を直接買い取りに行くこともしますし、こちらのお店の前でお花を販売することもあります。もう何でもやりますよ。
――なるほど。それにしては、すてきなお店ですね。
安部氏:
もともと四谷にあったのですが、2019年4月頃、虎ノ門に引っ越してきました。ちなみに、こちらの大きなテーブルでは、フラワーアレンジメント教室などを行っています。
イベントは店内だけではなく、小学校で「母の日のアレンジメント教室」なども実施しています。
――それは安部氏が企画されたのですか?
安部氏:
代表とともに企画・運営をやりました。あとは生産者からお花を買い取って、毎週金曜日に店舗と茅場町のカフェで「花摘みFriday」を行っています。1本100円で、自分でお花を摘んでもらうという企画です。
――想像するだけでワクワクします。しかもそのお花は、きれいなだけではなく生産者とスポーツ団体支援にもなる!
安部氏:
そうですね(笑)金曜日に虎ノ門か茅場町にお越しいただければできますよ。
――通販でもフラワーアレンジメントを手がけているようですね。
安部氏:
hananeの代表はもともとドイツなどで修行してきた人なので、とてもすてきなアレンジメントを作ってくれます(笑)。この店舗がおしゃれなように、とてもセンスがいいんですよね。
――店舗については、安部様は何か希望を言われたのでしょうか。
安部氏:
ないですね(笑)。私はあくまでも、捨ててしまうお花を何とかしたい。それをスポーツと絡めて事業化できたら、いいな。というところで活動しています。
なぜ「スポーツ×地方創生」なのか
――そもそもなぜサッカー(スポーツ)と地方創生をしようと思ったのですか。
安部氏:
Jリーグはもともと「地域密着」を謳っているのですが、いろいろな社長たちから話を伺ったところ、さまざまな経営課題があることがわかりました。その課題は地域により様々で人口衰退、経済低迷の中で、全国のクラブと戦っていかなければいけない現状があります。それに対処するには、チケット販売、広告、スクールなどの既存ビジネスだけでは、なかなか太刀打ちいかなくなるのではと感じています。
だからこそ人材だけでお手伝いをするのではなく、新しい事業をこちらから提案していく必要があると思うのです。
そのために働きながら「事業構想大学院」に通い、起業について勉強しています。すべては「スポーツ×地方創生」のキーワードを実現させるためです。
ちなみに大学院は 2週間に約1回で1年間のプログラムなので、子育てをしながらでも通えます。
――すごくいいですね。
安部氏:
「子どもがいたら無理」ではなく、「探せばあるものだな」と感じています。
――具体的にはどのようなことを学ばれているのでしょう。
安部氏:
2015年の国連サミットで採択された国際目標「SDGs」に基づいた新規事業を立ち上げるプロジェクトに参画しています。世の中にとっていいことをビジネス化して、事業を回していくということを学んでいます。
hananeやサッカーなどにも通じていると思っていて、社会課題のビジネス化を追求しています。
――それが冒頭におっしゃっていた、「カニ」や「なでしこリーグ」にもつながるのでしょうか。
安部氏:
そうですね、サッカーや地方創生のために「紅ズワイガニ」のプロモーション活動サッカー×カニ「サッカニプロジェクト」なども行っています。鳥取県はカニの水揚げ量日本一なのですが、県内人口は全国で最下位。県内での流通には限界があります。
しかし紅ズワイガニは築地等では流通されておらず、非常に安価なため東京の皆さんにも身近に鳥取県のカニを楽しんでもらえると考えています。そのため私が東京でプロモーションをして、それが売れるとクラブや鳥取の漁港に還元される仕組みとなっています。
その他にも、なでしこリーグ2部のちふれASエルフェン埼玉で営業支援を行っています。
――社会課題をビジネス化するのは、とても難しいですがやり甲斐がありそうです。
安部氏:
そうですね。Jリーグは特に、39都道府県、55クラブに広がっています。それぞれの地域の課題解決を、全国に広がっているクラブだからこそできたりすることがあるはずです。それを外から一緒に作り上げていきたいですね。
――スポーツにこだわられていますよね。
安部氏: やはり自分のルーツをたどればサッカーなので(笑)。
Jリーグも25周年を迎えて、今まではJリーグや各クラブを知ってもらう活動が多かったのですが、これからは「Jリーグを使って何かをしよう」というメッセージがJリーグからも出ています。
――「Jリーグを使う」とは、どういう意味ですか。
安部氏:
地域をよりよくする活動のために、Jリーグがこれまで育んできたスポーツの価値と、自分たちのもつリソースを世の中にもつかっていただき、共に未来を創っていこうというものです。
「SDGs」が採択され、持続的可能な世界をつくるために、Jリーグやサッカー界自体もそういう動きになっています。決して自分が今目指しているところは、社会の流れから見てもずれていないのかなと感じています。
「自分×夢」を実現させるには?
――どのように営業活動をされていますか。
安部氏:
「私にはこういう実現したい世界観があって、いつかこんなことをやりたい」と積極的に話をするようにしています。
例えば「サッカークラブとこういうタイアップをしてみませんか?」と私から提案をしに行き、それが上手くいくと「じゃあ一緒に引き続きやろうか」という流れですね。もちろん社長の実現したい世界観なども訊きながら行っています。
今では「サッカニプロジェクトを応援するよ」という方もいらっしゃれば、こういう場を提供するので、「ぜひまた自身の活動をプロモーションされたらどうですか?」と、お話をいただくこともあります。
発信していくことで「何か一緒にやろうか」とお声がけしてもらえるようになりました。
――クライアントは安部様に何を期待してオファーしていると思いますか。
安部氏:
本当ですね(笑)。何を期待してるのでしょう。……でも営業なんですかね。
――「営業力」という意味ですか。
安部氏:
はい。トップセールスマンになれるタイプではないと思っていますが、サッカーなどのスポーツ界に知人が多いので、希少に感じて頂けるのかもしれません。東京五輪も待っていますし、その中でスポーツをビジネスに、みたいな機運も流れとしてあります。
もう1つSDGsという意味で言うと、2025年の大阪万博はSDGs万博と言われ、また直近の2020年の東京五輪はSDGsが採択されて初めての五輪となります。持続可能な世界を実現するため日本が世界に向けてメッセージを発信できる場がたくさんあります。スポーツで社会課題解決をしたい!という想いを色んな方にお伝えしながら、もちろん勉強もしているので。そういう点に期待してくれているのかもしれません。
――なるほど。「スポーツで社会課題解決をビジネス化していく」もそうですが、ぜひ実現して欲しいなと思います。
安部氏:
世の中を良くしていく手段は、私でいうと「スポーツを使って」なのですが、具体的に困られている社長たちを思い返すと、地方都市の会社の社長であることが多くて。そういう社長たちの力になれたら嬉しいです。その会社にお金が直接入るというよりも、地域が元気になり経済がもっと回るようになれば、自然と企業にもお金が入ってくると思うので。
――ただ継続的に回すのが難しいんですよね。
安部氏:
仰る通りですね。単発でやっても意味はありません。経済活動にしていく必要があるのです。
――そう考えると花もカニも、すばらしい取り組みですね。
「スポーツ×地方創生」を行っている安部氏。後編では、母としてどのように仕事に向き合っているのか語ってもらいます。後編もお楽しみに!
<参考リンク>
・hanane
・Sideline Interview003:ママ界のエンターテイナー バブリーたまみ氏(前編)~ママ界のエンターテイナー「バブリーたまみ」に学ぶ、ポジティブ思考術~